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SAFとは?航空業界に学ぶ建築業界のBDFへの取り組みについて

航空業界の脱炭素実現に向けて注目されているのがSAF(Sustainable Aviation Fuel)です。航空業界でも脱炭素に対する具体的な目標が設定され、関連する各企業がSAFを活用した取り組みを発表しています。

本記事では、建設業界でも参考となるSAFの概要や航空業界としての取り組みを解説しています。また、建設業界として取り組むべきBDF(Bio Diesel Fuel)も解説しているため、SAFやBDFの導入を考えている方は参考にしてみてください。

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SAF(Sustainable Aviation Fuel)について

脱炭素の実現にむけて各業界が取り組む中で、航空業界で注目されているのがSAFです。SAFとはどのようなものか、次の内容で解説します。

  • SAFとは
  • SAFの現状
  • SAFの原料・製造方法

航空業界にとってのSAFは、建設業界にとってのBDF(Bio Diesel Fuel)にも通じるものがあるため、参考にしてみてください。

SAFとは

SAFは、次世代の航空燃料として世界的に注目を集めています。現在の航空機は原油を精製して作られる従来型の燃料を使用しており、燃焼時に新たなCO2を大気中に放出し続けているため、地球温暖化への影響が懸念されています

一方、SAFは植物などのバイオマスや廃食油を原料として製造される循環型の航空燃料です。これらの原料に含まれる炭素を利用して製造されるため、燃焼時にCO2を排出しても、そのCO2は再び植物の光合成により吸収されるため、大気中のCO2濃度を上昇させません。

SAFは大気中の炭素を循環させながら利用できる持続可能な燃料であり、航空業界の脱炭素実現に向けた切り札として期待されています。

SAFの現状

SAFは航空業界の脱炭素に不可欠な燃料として注目されていますが、2022年時点での世界的な供給量は約30万キロリットルにとどまり、従来型のジェット燃料供給量のわずか0.1%程度しかありません。

現在、SAFの製造方法としては、廃食油などを原料とする「HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)」技術があります。一方で、世界的な需要の高まりにより、原料となる廃食油の価格が高騰していることから、廃食油の供給不足が課題となっています。

このため、新たな原料として米国やブラジルで大量生産されているバイオエタノールに注目が集まっています。アルコール類からSAFを製造する「ATJ(Alcohol to Jet)」技術の確立が期待されており、将来的な供給量の拡大につながると見込まれています。

SAFの原料・製造方法

SAFの原料は多岐にわたっていますが、現状では飲食店やスーパーから回収された廃食油が主要な原料の1つとして利用されています。また、サトウキビやトウモロコシ、木材などのバイオマスを発酵させて作られる第1世代バイオエタノールからもSAFを製造可能です。

また、藻類や古紙などの非可食原料も活用できます。古紙の場合は、まずエタノールに変換してからSAFを製造する過程が必要です。都市ごみなども原料として利用でき、ごみの性質に応じて最適な製造方法が選択されます。

具体的には、次の原料と製造方法があります。

原料 製造方法
廃食油 飲食店やスーパーなどで排出されたものを回収
第1世代バイオエタノール ポリエチレンを作るときと同じ方法でつなぎ合わせる
非可食原料 大量に培養した微細藻類から油脂を抽出し、精製する
廃棄物 フィッシャー・トロプシュ法(FT合成法)を用いる
CO2、水素 工場や発電所から排出されたものを活用

特に、大気中のCO2を直接回収する「DAC技術」との組み合わせにより、より環境負荷の少ないSAF製造の実現が見込まれています。

航空業界のCO2削減の取り組み

航空業界のCO2削減の取り組みを、削減目標と削減スケジュールの観点から解説します。

CO2削減目標

航空業界は、国際的な脱炭素の流れを受けて、具体的なCO2削減目標を掲げています。2021年10月に国際航空運送協会(IATA)が、続いて2022年10月には国際民間航空機関(ICAO)が、2050年までのカーボンニュートラル達成に合意しました。

日本も2022年7月、国際民間航空機関(ICAO)のハイレベル会合において、国際航空分野での2050年カーボンニュートラル達成を正式に宣言しています。なお、目標の実現には、単一の対策では不十分です。

目標達成のためには、SAFの積極的な導入、電動化や水素航空機などの新技術の開発・実用化、さらには運航方式の効率化など、複数の取り組みを組み合わせた総合的なアプローチが欠かせません。

参照:経済産業省/航空機産業をとりまく情勢と社会実装に向けた取り組み

CO2削減スケジュール

航空業界のCO2削減に関して、ICAOは2010年の第37回総会で重要な方針を決定しています。具体的には、各国に個別の削減目標を割り当てない形で、2050年までに年率2%の燃料効率改善を目指すことで合意しました。

また、2020年以降は温室効果ガスの排出量を増加させない脱炭素に向けた成長を維持し、さらに2050年までには2005年比でCO2排出量を半減させる目標を掲げています。段階的なアプローチにより、航空業界全体で着実な環境負荷低減を進めるスケジュールが立てられています。

技術的な導入スケジュールは次の通りです。

導入技術 導入時期
SAF 2020年代から
電動化 2020年代後半以降
水素燃料電池 2025年代以降
水素燃焼技術 2035年以降

2050年に向けて、段階的に目標を達成するための技術導入が計画されています。

参照:経済産業省/航空機産業をとりまく情勢と社会実装に向けた取り組み

SAF製造にかかる取り組み

SAF製造にかかる取り組みとして、次の3つの事例を紹介します。

  • ENEOS
  • 出光興産
  • コスモ石油

それぞれの取り組みの詳細を解説します。

ENEOS

ENEOSは、SAF製造の実現に向けて、国際的な連携と国内での技術開発を進めています。フランスのTotal Energies社と協力し、和歌山製造所において廃食油を原料としたHEFA技術によるSAF製造を計画しており、2027年以降には年間約40万キロリットルの生産が目標として掲げられました。

また、CO2と水素を原料とする合成燃料の開発にも注力しており、2024年度に年間58キロリットル規模のベンチプラント、2028年度には年間1.7万キロリットル規模のパイロットプラントの稼働を予定し、商用化に向けた実証実験を段階的に進めています。

参照:ENEOS/ENEOS根岸製油所における持続可能な航空燃料の製造に関する事業化調査について

参照:ENEOS/合成燃料の大型商用プラントの稼働を目指す

出光興産

出光興産は、SAFの本格的な国内生産に向けて、2つの主要な製造拠点で異なる技術アプローチを展開しています。千葉製油所では、バイオエタノールを原料とするATJ技術の確立に取り組んでおり、2028年からの年間10万キロリットルのSAF製造開始が計画されています。

一方、徳山事業所で計画されているのは、すでに確立されているHEFA技術を用いて、国内外から調達する廃食油を原料としたSAF製造です。2028年から年間25万キロリットルの、より大規模な生産を目指しており、両拠点を合わせると年間35万キロリットルの生産能力となる見込みです。

参照:出光興産/SAF(持続可能な航空燃料)

コスモ石油

コスモ石油は、複数の企業と連携しながら、異なる技術を用いたSAF製造の展開を進めています。

堺製油所では日揮HDおよびレボインターナショナルとの協力のもと、国内の廃食油を活用したSAF製造を計画しています。HEFA技術を用いて年間3万キロリットルの生産開始を目指し、2024年12月25日付で製造設備が完工となりました。エアラインへのSAF供給開始は2025年4月頃が予定されていて、比較的早期の実用化事例です。

また、三井物産との協業では、バイオエタノールを原料とするATJ技術の導入を進めています。2027年時点で年間22万キロリットルの大規模な生産を計画しており、コスモ石油としてのSAF生産能力は年間25万キロリットルに達する見込みです。

参照:COSMO/SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)製造設備完工のお知らせ

参照:三井物産/Alcohol to Jet (ATJ) 技術を活用した国産SAF製造事業の共同検討を開始

SAF原料確保のための取り組み

SAF原料確保のための取り組みも各社で進められています。SAF原料確保のための取り組みとして次の3つの例を紹介します。

  • 東急不動産株式会社とエネオス株式会社
  • 出光興産株式会社と株式会社J-オイルミルズ
  • 日揮ホールディングス

それぞれの例を詳しく解説します。

東急不動産株式会社とエネオス株式会社

東急不動産とエネオスは、商業施設やリゾート施設から排出される廃食油を効率的に回収し、SAF製造に活用する取り組みを開始しています。

2023年11月30日に開業した複合商業施設「COCONO SUSUKINO」をはじめ、東急リゾーツ&ステイが全国で運営する29箇所のホテルやゴルフ場から排出される廃食油を回収することで、安定的な原料供給体制の構築を目指しています。

回収された廃食油は、エネオスが和歌山製造所で計画している年間40万キロリットルの生産能力を持つSAF製造プラントの原料として活用される予定です。両社の取り組みは、廃棄物の有効活用とSAFの安定供給を両立させる先進的な事例として注目されています。

参照:東急不動産/東急不動産とENEOSによる商業施設・リゾート施設における廃食油の活用について ~航空燃料の原料への廃食油再活用に関する基本合意書を締結~

出光興産株式会社と株式会社J-オイルミルズ

出光興産とJ-オイルミルズは、サーキュラーエコノミーの実現に向けた包括的な協力関係を構築しています。SAF製造に関わる原料確保、プラスチックリサイクル、バイオ化学品活用などのバイオマス事業の共同検討に合意しました。

両社は、SAFの原料確保の重要な課題として、食用作物との競合を避けることに注目しています。課題に対して、非可食油原料樹の持続可能な植林と搾油技術を活用することで、食料生産と競合しない原料調達システムの確立を目指しています。

取り組みは単なる原料確保にとどまらず、植林によるCO2固定量の増加、使用済みプラスチックのリサイクル、バイオナフサを活用した梱包材の開発など、両社の事業資産と専門知識を活かした総合的なバイオマス事業の構築を視野に入れた計画です。

協力関係は、環境に配慮した持続可能なビジネスモデルの確立に向けた重要な一歩となることが見込まれています。

参照:出光興産/出光興産とJ-オイルミルズによるバイオマス事業構築に関する共同検討について ~「油(あぶら)」を接点とした共創により、サーキュラーエコノミーを実現~

日揮ホールディングス

日揮ホールディングスは、「Fry to Fly Project」の革新的な取り組みを通じて、SAF原料の確保を推進しています。Fry to Fly Projectは、家庭や飲食店から排出される廃食油を効率的に回収し、SAFの原料として活用する国内資源循環システムの構築を目指したプロジェクトです。

企業、自治体、各種団体など、参加者を広く募ることで、より多くのステークホルダーを巻き込んだ廃食油回収の仕組みづくりを進めています。廃棄物の有効活用とSAF原料の安定確保を同時に実現する、持続可能な循環型社会の構築に貢献するものとして注目されています。

参照:日揮ホールディングス/廃食用油で空を飛ぶ!!全員参加型、できること無限のプロジェクト

SAF導入への取り組み

SAF導入への取り組みとして、国内の航空メーカーがどのように取り組んでいるのかを解説します。

JAPAN AIRLINES

JAPAN AIRLINES(JAL)は、航空業界の脱炭素目標達成に向けて、SAFの積極的な導入を推進しています。具体的な目標として、2025年度までに燃料搭載量の1%(4万キロリットル)をSAFに置き換え、さらに2030年度までには10%以上(40万キロリットル以上)まで引き上げることが計画されました。

国内外のSAFサプライヤーとの調達交渉を進めており、需要を集約することで生産規模の拡大を促し、調達コストの低減を図る取り組みも同時に展開しています。

参照:経済産業省/国産SAFへの期待と⾜元の取組み

ANA

ANAは、航空分野の脱炭素を促進するため、「SAF Flight Initiative: For the Next Generation」という革新的なプログラムを立ち上げました。プログラムは、様々な産業の主要企業がSAFのコスト負担に参加できる仕組みを提供しています。

参加企業は、SAFの導入コストの一部を負担することで、第三者機関から認証されたCO2削減証書を取得できます。航空輸送に関わるサプライチェーン全体でのCO2排出量削減への貢献が可能です。企業間の協力を通じてSAFの普及を促進し、航空産業の持続可能性向上を目指す取り組みとして注目されています。

参照:ANA/ANA Future promise CO₂排出量削減 「SAF Flight Initiative: For the Next Generation」の取り組み

建築業界にとって重要なBDFBio Diesel Fuel

航空業界ではSAFによって脱炭素を実現する動きをしていますが、建設業界ではBDFによって同様の目的を達成できる見込みです。BDFに関して、次の内容で解説します。

  • BDFの特徴
  • BDFの普及に向けた課題

それぞれの内容を詳しく解説します。

BDFの特徴

BDFは、植物性油を原料とした軽油代替燃料であり、既存のディーゼル車に特別な改造なしで使用できる環境配慮型の燃料です。

BDFの特徴は、環境負荷の低さにあります。原料となる食用廃油に含まれる炭素は、もともと植物が大気中から光合成によって取り込んだものであるため、燃焼時に排出されるCO2は実質的にゼロカウントされます。

通常の軽油と同等の燃費と走行性能を維持できることから、実用性の高い代替燃料として注目されているのが現状です。

BDFの普及に向けた課題

BDFの普及に向けては、技術的、環境的、経済的な側面で複数の課題が存在します。

技術面では、噴射装置の目詰まりやゴムなどの樹脂部品の劣化、エンジン出力・燃費の低下、低温時の始動性悪化、燃料の酸化劣化による粘度上昇などの機械的な課題があります。

また、地域資源の有効活用の利点がある一方で、BDFを燃焼させた際には、高温でものが燃えるときに発生する窒素酸化物のNOxの排気ガス中の濃度従来の燃料に比べてやや増加する傾向があることが分かっており、環境面での課題となっています。

BDFの品質格差の是正、製造コストの低減、利用技術の確立、そして農閑期における燃料の劣化防止など、普及に向けた運用面での課題解決も必要です。

まとめ

本記事では、建設業界の方向けにSAFの概要や現状を解説しました。SAFは植物などのバイオマスや廃食油を原料として製造される循環型の航空燃料です。これらの原料に含まれる炭素を利用して製造されるため、燃焼時にCO2を排出しても、そのCO2は再び植物の光合成により吸収されます。

日本の航空業界では2022年7月、国際民間航空機関(ICAO)のハイレベル会合において、国際航空分野での2050年カーボンニュートラル達成を正式に宣言されました。それを受けて、SAF製造や原料確保など様々な取り組みが実施されています。建設業界としても植物性油を原料とした軽油代替燃料のBDFを活用し、脱炭素を実現していかなければなりません。

近い将来には、建設業界ではBDFを取り入れたカーボンニュートラルへの取り組みが必要になるでしょう。本記事ではBDFの普及に向けた課題も解説しているため、参考にしてみてください。

建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。

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この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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